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コラム

夏バテの処方箋

 暦の上ではもう秋だというのに、相変わらず暑い日が続いている。夜も寝苦しいのでクーラーをかけたまま寝たり、冷たいお茶ばかり飲んだりしていると、いつの間にか体がだるくなりやる気までなくなってしまう。そんな時は却って運動をして熱い物を食べ、汗を流した方がいいようだ。そのうち本格的に秋になってもう少し過ごしやすくなるだろう。

 こころにも夏バテがあると思う。何か特別な理由があるわけではない。例えば信号が赤ばかりだったとか。食べたいメニューが品切れだったとか、ビデオの予約を間違えていたとか。取るに足らない出来事が重なるうちにいつの間にかかかっている、ごく軽い鬱のようなものだ。何となくやる気が起こらない。世界が自分を置き去りにして回っているような疎外感を感じる。一生懸命やっているつもりなのに報われない。そんな状態になる時が一年に一度位はやって来て、それを私は「こころの夏バテ」と呼んでいる。些細な出来事も積み重なっていくうちにこころがバテてしまうのだ。

 あまりにも何度も経験しているので、最近はさすがに対処法が分かってきた。ああそろそろ来たなと思ったら、とりあえず友達に愚痴を聞いてもらう。少しずつ溜まった埃を掃きだすように言葉にしていくと、段々整理されて色んなことがクリアになる。この場合、出来れば普段は会わないけれど何でも話せる昔からの友人がいい。学生時代の友人であれば今さら格好をつけずに済む。主婦なら主婦の、公務員なら公務員の悩みなどを聞いているうちに、結局どんな環境でもちゃんと生きていくのは大変なんだなと改めて思う。

 テレビでドキュメンタリーを見るのもいい。一般的には無名の、だけどその世界では注目されている才能あふれる若者が、日々頑張っている姿を見ると、私ってまだまだだなと思う。この前に見たのはピアニストだった。最年少でコンクール優勝を果たした彼女は技巧派と評されるのを嫌い、美術館に足を運んだり、三島由紀夫を読んだり、大自然の中で歌ったりして、感性を磨いていた。才能もない私はもっと努力しなければとその時は思う。

 ちょっと元気が出たら、外に出かける。私の場合は、展覧会でお気に入りの画家の絵を見るのが特効薬になる。気になる映画やお芝居。スポーツが好きな人なら、観戦もいいだろう。出来ればライブがいい。生のイベントは、そこに集まる人々とアーチスト達が繰り広げるパフォーマンスにパワーをもらえるような気がする。そうしているうちにふつふつと言葉が湧き上がり、眠れない夜が明けた頃にはすっかり回復している。


 そして思う。きっとこんな気持ちを乗り越えて作品は生まれて来るのだと。だからきっと多くの人に力を授けてくれるのだと。前は気にとめもしなかった歌のワンフレーズが傷口に沁みる。たまには落ち込むのも悪くはない。

文章と写真 水崎千絵


2007/09/13