
SPECIAL
地域の未来とIT 1 プロジェクト:ITによる地域活性
熊野古道の観光振興に向けて、
世界につながるシステムを
〜旅行予約システムのリニューアルプロジェクト〜
世界遺産「熊野古道」の観光振興に向けて重要な鍵を握る、「旅行予約システム」。
しかし、そこには数多くの課題が山積していた。
いかなるリニューアルを実現すれば、それらの課題を克服できるのか?
プロジェクトに取り組む社員の軌跡を追う。
※記事内容は、取材当時(プロジェクト開始〜要件定義のプロセス)のものです。
profile
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ソリューション推進部
三谷さん
▶2020年入社/生物理工学部卒
大学時代は機械学習を研究。プログラミングが好きであることからSEを志し、当社へ入社した。入社後、現部署に配属され、以来、ワークフローシステムの設計・開発・管理、販売管理・財務システム更改支援などに従事している。
EPISODE #01
熊野古道の観光事業が抱えていた課題
一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下略称 ※1)向け「旅行予約システム」のリニューアルプロジェクトに、リーダーとしてアサインされた時、三谷は思った。「入社以来、一般企業向けシステムの開発を手がけてきた私としては、観光系のシステムは未経験分野。しかも規模も大きい。大変だろうけど、面白そうだな」と。
2004年に世界遺産登録を果たした熊野古道(紀伊山地の霊場と参詣道)をはじめ、熊野本宮温泉郷、海・山・川などの自然と山海の幸という観光資源を強みとして、熊野古道歩きを目的としたインバウンドをメインターゲットにした観光戦略を進めているなかで、「旅行予約システム」の性能品質は、その成否を握る重要なポイントとなる。しかし、お客さまである、田辺市熊野ツーリズムビューローが運営する現行の予約サイト『KUMANO TRAVEL』には多くの課題があった。「顕在化していた一番大きな課題は、システムの老朽化により、処理スピードが非常に遅かったこと。そのため急増するインバウンドにシステム自体が対応できなくなっていました」。
一方、インバウンド急増に伴い、オーバーツーリズム(※2)が問題視されるようになってきており、新規システムにはその未然防止も期待されていた。「たとえば、宿泊施設を予約せずノープランで熊野古道を訪れ、なかには野宿をいとわない方もいて、地元に迷惑がかかるケースも出ていました。そこで、旅行者がよりスムーズに宿泊予約ができたり、田辺市熊野ツーリズムビューローの職員さんがより効率的に宿泊事業者と連携できるようになれば、こうしたケースを未然に防げるだろうと。つまり、旅行事業の業務運用の改善およびITシステムによる効率化が求められたのです」。
Ⓒ田辺市熊野ツーリズムビューロー
さらに、三谷がお客さまへのヒアリングを進めていくと、やりたいことは次々に溢れてきた。たとえば、AIチャットボットを導入して、外国人旅行者の皆さんのあらゆる質問に答えられるようにしたい、また、データ分析機能の拡充によって、年間を通して戦略的に集客の施策を計画・実行できるようにしたい、などなど。しかし……。「新規システム稼働は約1年後であることが決定事項。そのため今回は、現行システムより処理スピードを格段に向上させ、かつ業務のムリ・ムダ・ムラを改善すること、さらにデータ処理・分析・収集機能を、旅行予約システムのみで解決するのではなく、BIツール(※3)をはじめとした外部ツールの利用も視野に入れることなどを開発のメインターゲットとし、それ以外の新機能については後々、追加できるよう、柔軟性のあるシステムをつくることとしました」。
※1 一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー:2006年に田辺市で設立された官民協働の旅行プロモーション団体。熊野エリアを中心とし、地域の事業者とともに「持続可能で上質な観光地づくり」を目指している。 参考:https://www.tb-kumano.jp/
※2 オーバーツーリズム:観光地に旅行者が集中することで、地域住民の暮らしに影響が出ること。
※3 BIツール(Business Intelligence Tools):企業が保有する膨大なデータを集約し、分析して経営判断に活用するためのアプリケーションソフトウェアの総称。

EPISODE #02
円滑なシステム運用を実現するために
システムの要件定義に先立って、三谷が課題を詳細に把握するために行ったのは、お客さま先を訪問しての、2泊3日におよぶヒアリングである。「現行システムにはどんな機能があるのか、何ができるのか、あるいは逆に操作をしていて不満なことは何なのか、旅行者の方が操作する部分の不具合は何なのか……。実際に操作している職員さんに直接お話を伺うことで、文書だけではぼやっとしていた課題が明確になりました。また、そうしたなかで、お客さまとの信頼関係も深まりました」。
次に要件定義の段階で三谷を悩ませたのは、現行システムに関する資料が少ないことだ。「開発期間もタイトであるため、素早く、画面やソースコードから現行システムを理解したうえで、田辺市熊野ツーリズムビューローの職員の方々、旅行者や宿泊事業者など、システムを利用するユーザーが使いやすいシステムを再構築しなければならず、そこに苦労しています」。
本プロジェクトでは、KJSがシステム基盤の構築を担い、フロントエンドとバックエンドの開発は地元のベンダーを含む2社にそれぞれ依頼している。そのため資料が少ないなかでは、社内のプロジェクトメンバーへの正確な情報の周知とともに、ベンダー2社との認識合わせがより重要になる。「情報に少しでもズレがあると、プロジェクトメンバーやベンダーから上がってきたものが、お客さまが求めていたものとは違うということになりかねないと思っています」。
加えて、三谷が難しさを感じているのは、本プロジェクトが海外からのアクセスをターゲットにしていることだ。「セキュリティ面も考慮する必要がありますし、世界中からのアクセスであるため時差があり、しかも、アクセス数も桁違いに多くなるなかで、24時間安定稼働を保証しなければなりません。こうした難易度の高い開発に対応すべく、有識ベンダーをプロジェクト体制に組み込み、また、私自身も新たな知見を獲得する努力を重ねています。困難はあれども、そこに立ち向かう面白さも感じています」。
要件定義を進めていくとともに、三谷は、短い開発期間で、間違いなくプロジェクトを遂行するためのさまざまな工夫を考えている。「お客さまに完成形をいきなり見せるのではなく、『この画面はこんな感じになりました』『こんな動きをしますよ』などと、段階を踏んで見せていくことで、手戻りなく、難所を解決していけるかなと。また、すべてのタスクを並べたチャートを作成し、通常よりもかなり細かいスケジュールを引いています。そこまでスケジュールのコントロールを徹底していかないと、高い品質を維持しつつ、決められた期間で開発をやり切ることはできないと覚悟しています」。
要件定義が完了すると、プロジェクトチームは1年後の新規システム稼働へ向けて、開発業務に入っていく。

EPISODE #03
新規システム稼働後に見据える未来
要件定義を進めながら、三谷は並行して、新規システム稼働後の次の提案を行っている。「新規システムによる観光客宿泊数のデータ処理・収集は可能ですが、そこで蓄積したデータを分析する機能のさらなる拡充や、AIチャットボットの導入などは、今回の開発期間では入れられない可能性があります。そのため、引き続きリニューアルを進めていきましょうと、お客さまとお話ししていますし、それに対してお客さまも意欲的であるのを感じています」。
三谷はこれまで、熊野古道の観光振興に向けたお客さまの強い思いを知っていくなかで、ITシステムの活用を通してインバウンド需要を高めることが地域に大きな価値をもたらすことを、より実感するようになったという。「海外の旅行者が安心して熊野古道を参詣でき、和歌山を訪れる人が増えれば、和歌山への注目度が高まるし、和歌山の経済も潤います」。
また一方、本プロジェクトがKJSにもたらす影響も多大だと話す。「観光業のシステムへのチャレンジにより、当社に新たな知見が蓄積されるのはもちろん、本プロジェクトの実績のもと、さらに別の新しいチャレンジに挑みやすくなるはずです。また、本プロジェクトのように、和歌山でともに地域貢献を目指すベンダーさんたちとコラボレーションし、システムを共創していくプロジェクトは実はあまりないこと。そんななか、システムづくりの新たなモデルができるのではないかとも思います」。
さらに三谷自身のキャリアにおいても収穫は多い。「これまで、当社がつくったシステムに要件を追加するプロジェクトのリーダーを務めたことはあるのですが、新規システム立ち上げのプロジェクトリーダーは初めての経験です。自社内のメンバーだけでなく、他ベンダーのメンバーの管理も行うことになるので、そのなかで大きく成長できるのではないかと期待しています」。
本プロジェクトを成功させて、自身の成長はもとより、KJSの社員のモチベーションアップ、会社自体のブランド力の向上にもつなげていきたい。それが三谷の願いだ。「和歌山という地域に根ざした当社が、世界とつながるシステムを手がけていることは誇れること。これをスタートとして、ITシステムを通して、いろんな分野において、和歌山と世界をつなげていければと考えています」。

地域活性の起爆剤となる観光産業。
ここから、ITの可能性はさらに広がっていく。